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「Weblog」(「blog(ブログ)」)は,だれでも手軽に個人サイトをもて,だれもがジャーナリストになれる「ミニメディア」として海外で注目されている。一方,日本では「Web日記」と呼ばれるサイトが多く存在している。
日記コミュニティサイト「chibikki(ちびっき)※」上の日記をオンデマンド印刷で出版するシステムにより,みつわ印刷がオンデマンドアワード2002(イノベーティブ技術部門賞)に輝いたのは記憶に新しい。
「chibikki」を開発したのは株式会社デジタオ。「インターネットの時代に入り,一番パワーがあるコンテンツはコミュニティ。特に,日本でこれから広がるのは日記だと思った」と代表取締役の井口尊仁氏。一つひとつは小さくても,それらを束ねるとメディアとしてのパワーがあるということに目を付け,1999年12月デジタオを設立,「chibikki」を開設した。
「chibikki」のネーミングは,ちび日記(小さい日記)がたくさんあるというところに由来している。予想どおり,「何千人という作家たちが,日々,放っておいても,エキサイトして好きなことを書き続けているので,コンテンツがどんどんたまっていく」と井口氏。
アメリカのブログは,数が多く勢いもあるが,日本の日記コミュニティも,質的にも量的にも負けていない。「アニメ,マンガが日本発の文化としてもてはやされるように,Web日記文化も日本発のカルチャーとして,アメリカにも引けを取っていないですよ」。
「chibikki」は,簡単で使いやすい日記ツールを利用し,ユーザが日記やデジタル写真を公開できるようにした「日記コミュニティ」。読者がコメントを加えたり,サイト上で日記作家と対話することもできる双方向型のサービスである。
「chibikki」のサイトを開くと,薄いピンク系統で統一されていて,暖かみがあり,優しいイメージを受ける。やはり,日記のアクティブユーザは20代,30代の女性だ。もちろんテーマによっては,老若男女,さまざまな人が集まってくる。
ゲストユーザとして日記を閲覧するだけの参加方法もあるが,登録をしてコミュニケーションに積極的に加わっていくほうがずっと楽しい。さらには,自分自身が日記をつづっていくことで「日記作家」への一歩を踏み出すと,ほかの登録者からのコメントをもらうこともでき,新しいコミュニケーションが生まれる。
自分の日記スペースをもつと,その日のタイトル,天気を入力し,後は自由な形式で日記を書くというシンプルなシステムだ。どんな人たちが自分の日記を読みに来てくれたのかが,顔アイコンや棒グラフ(人数)でグラフィカルにリアルタイムに表示され,顔アイコンは訪問ユーザのプロフィール画面へとリンクする。そのほかにも,登録されている日記作家の居住地や性別,趣味などから,気の合う友達を検索する機能があり,お気に入りの日記をブックマークすることもできる。
日記作家として日記を書き続けていくと,次のステップとして,「書いたものを本として手元にとっておきたい」という欲求がわく。そのような声が聞こえ始めた時期と,技術的にオンデマンドが成熟化してきれいな本が安価に作れるようになったのが同時期だったということもあり,井口氏は,日記コミュニティ上の個人出版流通を世界で初めて実現させることに踏み切った。
オンデマンド出版に当たり,みつわ印刷とパートナーになったのは正解だった。みつわ印刷には,印刷から発送まで一貫した体制があり,オンデマンド出版にはうってつけだった。
オンデマンド出版の仕組みは,ユーザが「chibikki」のサイトから出版を注文すると,出版に必要なデータファイルが自動作成・暗号化され,Sftpサーバに送られる。Sftpサーバでは,日記データをSGMLにより出版用のフォーマットに変換し,みつわ印刷の工場にデータ入稿する。日記は1冊1280円で,1冊からの購入が可能である。作った日記本を「WEB書店book it?」で販売したり購入したりすることもできるような流通の場の提供もしている。
「実は,そこが重要なんです。日記という膨大なコンテンツが日々生まれ,そこから生まれた本も,日記というメディアを通じて第三者が買うことができる。それによって,書いた本人だけでなく,そのコンテンツに興味をもっている人々が参入して,経済行為に乗っかれる。読者がパブリッシャーに切り替わり,場合によっては,エディターも出てくる。取次,書店のようなディストリビューター,さらにプロモートする人なども出てくるかもしれない。そうやって,この仕組みが広がっていくと,もっともっと面白いビジネスが出てくる可能性があるのではないだろうか」。井口氏の構想はどこまでも広がっていく。
2003年4月,「デジタオ・ブックレット」という出版事業をスタートした。「書く力,売る力があるプロにも,この仕組みを使ってもらえば,簡単に経済につながるインフラを提供することができるのでは」という思いから始めた事業である。
まずは,松岡正剛氏の本を新書形式で毎月3冊出版している。オンラインでは1冊売り,書店(全国20店舗)ではセット売りという形で販売している。東京・八重洲ブックセンターでは,「芸術・人文分野」でランキングされている勢いだ。在庫がなくなる度にオンデマンド印刷している。
「オンデマンドのツールをうまく利用し,お客さんとの接点をきちんと見て,必要な部数を発行しなければならない。そうでないと,小規模の閉じた出版ネットワークだけに終わってしまう。必要としているお客さんにいかにきちんと届けられるかが大切」(井口氏)。
「今後は,著者と書店と読者のコミュニティをどうネットワーク化するかが課題。日記という媒体があり,日記作家がいて,読者がいる…そういうコミュニティから,新しい出版ネットワークをどう作っていくか。コンテンツを届けられる関係を見つけ,そのネットワークをいかに出版の経済に乗せるかが大切」(同)。
本は,買う側がお金を払い,版元がリスクをもつという旧来の構造から脱皮しようとしている。本を出したい側がリスクを負い,今までの流通チャネルを使わないで「産地直送」的出版をする。それができるのは,オンラインのコミュニティ,オンデマンドの仕組みがあるからにほかならない。
今は,新しいコミュニティから新しい作家が誕生し,新しい形の本の流通が生まれようとしている過渡期にあるのではないだろうか。
※「chibikki」は,現在,(株)ビブロポートにより運営されている。(http://www.bibloport.com/
資料提供:日本印刷技術協会『Printers Circle
2003年11月号 おか・ちなみのニュービジネスレポートより