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ドキュメント・サービス・フォーラム(DSF)は、出版業界を対象にオンデマンド印刷の現状と今後の展望を紹介する「無在庫出版への挑戦」と題したセミナーを開催した。
DSFはDocuTechユーザーを中心に97年に設立。オンデマンド印刷に関する研究会として、32社が参加し研究・啓発活動のほか、弱視者に対する大活字本の配布など、ボランティア活動も行っている。
講師はDSF会長である中西印刷(株)・中西秀彦専務が務め、オンデマンド印刷の出版応用、現状と課題を紹介。中西氏は『活字が消えた日』『印刷はどこへ行くのか』(晶文社)といった著書の他、大谷大学非常勤講師として情報文化論を教えている。
講演後は開催場所である富士ゼロックス(株)「Document HUB Akasaka」でDocuTech6180及びColorDocuTech60を使用したオンデマンド出版の実演が披露された。
私たちDSFは殆ど中小印刷業の集まりです。大手印刷会社のように二〜三万部、或いは一〇〇万部という印刷を行っている会社ではありません。五〇〇〜一〇〇〇部、多くても三〇〇〇部ぐらいの印刷を手掛ける中小の印刷会社の集まりです。
しかし、我々は印刷会社ではありますが、出版会社と一緒に文化を担い、発信し続けてきたという自負があります。
今、出版社は未曾有の不況の中で苦しまれていることと思いますが、同時に出版社から仕事を頂戴している印刷会社も苦しみ続けています。
しかし、新しい芽も育ちつつあります。
オンライン出版やオンデマンド印刷など、着実に新しい芽が出てきています。
コンピュータをはじめとした、このような新しい情報通信技術をもって「何ができるか?」ということをご説明したいと同時に、「何ができないのか?」ということも包み隠さずお話したいと思います。それにより印刷会社と出版会社が新たな出版のあり方を考えていきたい。大量生産、大量消費に頼らない新しい出版文化を一緒に築いていきたいと考えています。それが本日のセミナーの主旨となります。
出版状況の変化ですが、言うまでも無く出版業界は不況にあります。本の売上は低迷を続けています。しかし、それにも関わらず出版点数は過去最高であると言われています。小部数化・多点数化です。たくさんの点数を出版しなければならないが、個々の出版部数は減少しているという状況にあります。
その中で高速大量型の出版システムが限界に来ているということは、いろんな所で指摘されています。
二十世紀の技術文化はひたすら「高速に」「大量に」ということを突き詰めてきました。しかし、二十一世紀に入り"高速""大量"ということが行き詰まっているということがはっきり見えてきています。
多品種・少量生産が求められているわけです。これはどのような分野でも言えることです。非常にきめ細やかな商品展開、個々のニーズに合わせた商品展開が求められている。二十一世紀の資本主義を形作るのは多品種・少量生産であると思います。人々のニーズにきめ細かく対応するということは、出版も例に漏れないと言えるでしょう。
大量印刷・大量在庫型の出版が限界に来ています。これまでは初版で大量に刷り、それを何年かの間で捌いていけば良いという考え方があったわけですが、現在、取次ではそのような考え方を受け入れなくなって、とにかく新刊を出版することを求めるようになりました。新刊書を短期間で回転させていくことを優先しているわけです。そうしなければ在庫数はどんどん増大しますし、取次も倉庫がない状態なので、在庫は出版社の倉庫で保管しなければならない状況です。とは言っても換金の長期化が起こっているので、なかなかお金にはならない。下世話な話ですが、印刷会社にしても、印刷料金がなかなか頂けない。このようなことが続いています。
しかし印刷会社では、初版は二〇〇〇部、再版は一〇〇〇部以上印刷して下さいと要求しています。もちろん、それ以下の部数でも出来ますが、少量で、しかも短納期でということになりますと、非常に割高になっていまいます。今は、大量に印刷して大量に在庫しておくということも、少量刷って、少しづつ再版を重ねていくということも、うまくいかない状況にあります。
基本的には必要な時に、必要な量だけ刷れば良いわけです。ところが、今、ほとんどの印刷会社が設備しているのはオフセット印刷の技術です。これは高速・大量という技術の典型です。刷れば刷るほど効果が生まれます。だから一〇〇万部する本ならば、もの凄く利益が出る。しかし、逆に言えば一〇〇部、二〇〇部ならば割りに合わない。小部数の場合はもの凄く高くなってしまう。
やはり、これまでも無在庫出版を実現する技術というものは模索されてきました。「どうすれば無在庫出版を実現することができるのか」ということを出版業界も考えてきましたし、印刷業界も考えてきました。
大手の印刷会社においては、この無在庫出版についてほとんど目を向けませんでした。未だに高速大量生産を行うオフセット輪転機を導入し続けています。だが、中小の印刷会社においてはオフセット輪転機はとても手が出ません。やはり、我々は小部数でも見合うシステムを構築しなければなりません。そこでオンデマンド印刷なのです。
「オンデマンド」という言葉ですが、「デマンド(Demand)」は「需要」という意味であり、その上に「オン(On)」が付くわけですから「固着」しているということで、「欲しいときに欲しいだけ」というのが「オンデマンド」の意味になります。
この「欲しい時に欲しいだけ」という「オンデマンド」は、まさしく二十一世紀のあり方です。これを可能にしたのがコンピュータと印刷の直結です。
これまでも印刷はコンピュータ化されてきました。ちょうど一〇年程前に日本の印刷業界は活版印刷の時代からコンピュータを利用した印刷の時代に突入しました。しかし、それでもコンピュータと印刷が直結したということではありません。版下を制作するところまでがコンピュータ化されただけであって、印刷そのものにおいては手動写植の時代とほとんど変わっていなかったわけです。オンデマンド印刷はコンピュータと印刷機が直に結びつけるという発想により生まれました。これにより「オンデマンド」が可能になってきたわけです。
オンデマンド印刷の基本コンセプトは「必要なものを」「必要な時に」「必要な分だけ」ということです。「必要なものを」というのは「要求に合った品質で」ということですが、要するにこれは"質"はあまり問わないということです。「必要な時に」ということは「短い作成期間」を意味します。「明日欲しい」という要望にも対応できます。「今日欲しい」という要望でも、やり方にもよりますが対応することができる。「必要な分だけ」というのは、例えば「一冊作ってくれ」という要望に対してオフセット印刷でも対応できますが、価格は一〇〇〇冊制作するのと変わりません。仮に一〇冊制作するとしたなら、価格は一〇〇〇冊制作する価格の一〇〇分の一でなくてはならない。それがオンデマンド印刷の世界です。
しかし、厳密に言えば一〇部の増刷といった場合は、いかにオンデマンド印刷といえども少し割高になります。一〇〇部であるなら合います。「オンデマンド印刷なら一冊でも良いのか」ということを言われたりもしますが、現実には一冊では困ります。このようなことも正しく言っておく必要があると思います。
オンデマンド印刷の特徴ですが、印刷とコンピュータが直結しているので、組版データをそのまま印刷機で出力することができます。これにより製造工程は大幅に省力化されます。今までの、版下出力、版下貼り込みといった製版処理が全く無くなってしまいます。製造工程が大幅に省力化されることで、将来的にはオンデマンド印刷がオフセット印刷に取って代わるだろうと考えられています。私はこの時期は二〇一〇年だと考えます。印刷業界では二〇二〇年や二〇三〇年という見方もあります。しかし、この業界で共通しているのは、少なくともモノクロ印刷においては二〇五〇年までにはオフセット印刷は無くなるということです。ただし、現在のところは多品種少量生産に威力を発揮することが特徴になっています。小ロットであるならば低コスト・短納期を実現することができます。だが、逆を言えば大ロットには不向きということになります。これは「現時点においては」ということです。今日は富士ゼロックスに会場を借りているわけですが、同社は高速大量印刷に対応できる製品の開発をしているわけですから、将来、全ての印刷物がコピー機に移行するということも考えられます。ただ現時点においては小ロットなら低コスト・短納期を実現できるということは確実に言えます。
もう一つオンデマンド印刷の特徴となるのは、印刷データをデータのまま保存するということです。つまり、(オフセット印刷のように)フィルムで置き版はしません。中西印刷では来年の六月でフィルムの置き版はやめると宣言しています。フィルムは全部デジタル化しています。フィルムの置き版をやめるということは省スペース化にも寄与します。
オンデマンド印刷の製造工程を図にしてみたので、いかに省力化されているかということが解ると思います。上は従来のオフセット印刷の製造工程です。まず「執筆」があり、「入力」を経て、「印刷依頼」を出版社が持ってきます。それから印刷会社では「台紙作り」「製版」「校正刷り」「刷版」「本刷り」を行います。そして製本会社に行き「折り」「丁合」「綴じ」「裁ち」が行われた後、「保管庫輸送」し、「保管」し、注文があれば「配布」します。このように大変な工程を経ているわけです。これだけの工程を経ていると一部、二部ではとても適わない。一部、二部でも一万部、二万部でも真中の工程は変わらないわけで、こうしたことを行っていては小部数が高価になるのは当り前です。
これがオンデマンド印刷になると、「執筆」「入力「印刷依頼」までは同じですが、あとは「オンデマンド印刷」という工程が一つだけで、後は「配布」となります。なぜ、このようなことが出来るのかというとオンデマンド印刷は出口から本になって出てくるからです。もちろんオンデマンド印刷でも様々なやり方があり、製本のみを従来の工程で行うこともできます。だが恐るべきことにオンデマンド印刷機は、コンピュータでプリントアウトするように、本が作れるという特徴を持っています。だから、人間はほとんど何もしなくてよいわけです。
オンデマンド印刷が小部数のコストをなぜ低減できるかというと、オフセット印刷の場合は初期コストが非常に高いわけです。オンデマンド印刷の場合も、初期コストがゼロであるわけではありません。最初のセッティングなどに費用は掛かります。しかし、最初の立ち上がりのコストは非常に低いわけです。だがオフセットも部数が増えてくるとコストは下がってきます。そこでオフセットとオンデマンドの分岐点となる部数が問題となります。この部数は企業秘密的な点もあり、各社によって答えは異なりますが、現状では二〇〇〜三〇〇部です。つまり、二〇〇部の再販ならばオンデマンド印刷の方がコスト的に優位であると言えます。しかし、この分岐点の部数は確実に増加しています。富士ゼロックスの最新機種であるDocuTech6180ならばこの分岐点は五〇〇部位になると印刷業界では考えられています。だから五〇〇部くらいならオフセット印刷より確実に安くなると言えます。恐らく、この分岐点は数年以内に一〇〇〇部までいくと思われます。数年以内に一〇〇〇部までいくのなら、二〇一〇年にはオフセット印刷によるモノクロ印刷は無くなると考えられます。
すでにオンデマンド出版は行われ始めています。
まず従来技法の代替としてオンデマンドを使用しているケースがあります。オフセット印刷機の代わりにオンデマンドを利用しようというものです。このケースは自費出版での利用が非常に多いです。自費出版は一〇〇部〜二〇〇部の出版でも(印刷発注者は)採算を取る気がないから出来るわけです。現在、オンデマンド印刷における最大の市場は恐らく自費出版であると思われます。今日、DSFのメンバー会社が何社か来ていますが、自費出版の実例を並べて頂いています。
また、学術報告書も国から予算が出て、一〇〇〜二〇〇部製作するケースが多いです。海外では、学術報告書や学術出版を専門とするオンデマンド印刷の会社が起ち上がっており、新しい市場だと言われています。
しかし、商業出版では(従来技法の代替としてオンデマンドを利用するのは)かなり大変になります。売上総額が少ないからです。一〇〇〇円の本を二〇〇部売ったとしても、二〇万円にしかならない。だから従来技法の代替としてオンデマンド出版を行うのは現状では困難だと思います。
ただ、『季刊 本とコンピュータ』において、「リキエスタ」という試みが行われています。ただし、これは「人文書の出版で定評のある六社の編集者が、再編集・新編集の道具としてオンデマンド出版に挑戦」したものです。つまり、出版社の営業が作ったのではありません。編集者がどうしても作りたい本があり、しかしそれが商業的に見合わない。この「どうしても作りたい」という想いを実現するには、オンデマンド出版しかありません。
(リキエスタのサイトには)「人文系六社の参加によって、各社第一線の編集者がオンデマンドを含む電子出版の編集・制作・流通を実地に経験し、編集者の武器としての〈電子出版の可能性〉を探ります。合わせて人文書・専門書というものの『新しいかたち』を提起します」と記されています。だから専門的な書籍が多いです。そして価格も非常に高く設定しています。
これは従来技法の代替としてのオンデマンド出版となるわけですが、これまでオンデマンド出版はこのタイプばかり考えられてきました。しかし、これでは商業的に見合うはずがありません。だからオンデマンド出版は駄目だと烙印を押してしまう。このタイプは編集者の情熱があってなされるものであり、営業的には見合うはずがありません。初版二〇〇〜三〇〇部のものですから、商業出版として成り立つわけありません。
また、絶版本復刻のためにオンデマンド印刷機を使っているケースがあります。これで非常に有名になったのが日販の「BOOK-ING」です。九九年の八月に業界を震撼させたと言っても良い程、注目されました。「BOOK-ING」が日本で初めてオンデマンド出版という言葉を使ったのだと思います。
このサービスは完全にデジタルではありません。既に印刷されている本をバラバラに分解して、それを読み取り、再版に使おうという試みです。そしてインターネットでどのような書籍を復刻して欲しいか、アンケートを行い、そのアンケートの数が多い本を復刻しています。
これは皮肉なことにマンガでは成功しています。インターネットを利用する世代というのは、若い世代が多いということもあり、若い世代は本を読まなくてマンガしか読まないということがあると思います。五〇〜六〇歳の読書家の人たちというのは、あまりインターネットを使わないでしょうから、そのような意味では損をしている部分もあると思います。しかし、これは私見になりますが、一般書への効果は疑問です。
「BOOK-ING」のサイトには、「過去二〇年に流通した書籍は約一六〇万点もありますが、実際に流通できる本はわずか四〇万点にしかすぎません」と記されています。つまり一二〇万点は二〇年間で絶版になってしまう、ということを言いたいわけです。
しかし「BOOK-ING」の現在の出展点数は二二一点です。三年間で二二一点しか出してません。現時点で一〇〇〇点以上復刻されてなければ成功したとは言えないのではないでしょうか。まだ実験的なレベルではないかと思います。
最後に完全注文生産型のケースを紹介したいと思います。このサービスは初版から注文生産によって出版するものであり、富士ゼロックスの「BookPark」が有名です。これは村上龍氏の『共生虫』で有名になりました。通常の書籍として出版される前に、先行販売としてオンデマンド出版を行うということで、非常に話題を集めました。
また、小松左京氏が自身の全集を「BookPark」で販売しています。小松左京氏は「作家が自分の手で全集を出す時代なんだ」と言って頑張っておられます。このオンデマンド版小松左京全集の面白い点は、短編合本というサービスです。まだ読んでいない作品や、自分が好きな作品を集めて短編集を作ることができます。このようなサービスは他にも応用できると言われていますが、まだ他のサービスでは聞いたことがありません。現在、オンデマンド版小松左京全集には約三〇〇タイトルありますが、全部で一〇〇〇タイトルくらいになるだろうと言われており、どんどんアップされています。この小松左京全集というのは、本としての実態は存在ません。「全集」という名のオンラインサイトであり、注文されることで初めて本となって送られてくるというものです。非常に新しいサービスと言えるでしょう。
この「BookPark」のサービスは非常にコストが掛かりますが、面白い試みだと思います。趣味的な物はニーズが強い。SFなどのジャンルは非常にマニアックな世界であり、いくら高価でも欲しいという人がいるので、成り立つようです。
現在のオンデマンド出版を総括しますと、はっきり言ってまだ実験段階の域を出ていません。
私どもDSFでもオンデマンド出版で「大活字本」というものを製作しています。これは弱視者の方のためのものであり、字を大きくした本になりますが、現状ではほとんどボランティア的運用となっています。
また、絶版本の復刻においても、絶版を無くすという心意気、社会的使命感が中心です。日販の「BOOK-ING」で、復刊して欲しいという声が集まったとしても、せいぜい二〇〇〜三〇〇部であり、一冊二〇〇〇円で販売しても、売上は四〇〜六〇万円です。やはり商業的に見合うものではありません。
結局行きつくのは、ごく小部数では総額が少ないので、どのようなオンデマンド印刷の方法をしてもうまくいかないということです。小部数出版では編集・制作費はまかなえないわけです。
商業出版として成り立つにはどうすれば良いかを考えなければなりません。
まず、出版物作成に関わるコストを個々に見つめると、印刷コスト以外のものがあることが判ります。「廃棄処分コスト」「余剰在庫管理費」「過少印刷割増」「少量再版割増」などです。また、これに伴い「残業、アルバイトの増加」「内容の妥協」「外販タイミングのずれ」「再利用率の低下」などの問題があります。
こうして見ますと、印刷コストというのは目に見える表面上のコストであり、オンデマンド印刷を行うと表面下のコストを削減することができます。そこに商業出版におけるオンデマンド印刷利用の可能性があるのではないか、と考えられます。
また「外販タイミングのずれ」という問題は出版社の実情としてよく聞きます。私も晶文社から『活字が消えた日』という本を出版したのですが、晶文社は初版部数をあまり出してくれませんでした。しかし、出版したと同時に書評で紹介されました。書評が出れば問い合わせも来るわけですが、その時には書店に無いわけです。私の場合、増刷はしてもらえましたが、そこで時間が経ったときには潮が引くように需要が無くなっています。だから「外販タイミング」をオンデマンド印刷で細かく調節してはどうかと思います。
オンデマンド出版にはどこに問題があるのか考えてみますと、まずアナログ技術を前提にしていることと言えます。つまり、今までの印刷技術の延長として、単なるオフセット印刷の代替としてしか考えていなかったわけです。だから印刷工程、出版工程、編集工程を見直すことが出来なかったわけです。日販「BOOK-ING」は既にある本をバラして、スキャナで読み取り印刷するわけですが、この場合、読み取りに時間がかかり、またスキャニングによる歪みなどの調整や、スキャニング時のゴミ取りなどを行わなければならない。このようなことをしていると、工程の短縮効果が発揮されないことになります。
また、もう一つの問題点は、あくまでもオンデマンド出版は二〇〇〜三〇〇部なわけですから、大量生産システムを前提にしては無理があります。売れれば一万部、二万部を売ってしまおうという発想ではオンデマンド出版は適用できません。
まずはフルデジタルが前提です。デジタルで制作されたものは簡単にCTPで出力しオフセット印刷することができます。また、簡単にオンデマンド印刷機で出力することもできます。さらにCD‐ROMやインターネットといった媒体に流すことができます。津野海太郎氏はこれを「デジタルデータの流動性」と言っています。デジタルワークフローはあらゆるものへ流れ出すわけです。そのためにはフルデジタル組販を行う必要があります。我々が一番頭を悩まされるのはアナログ工程が一ヶ所でもあれば、それはオンデマンドにならないということです。写真も、図も、表も、テキストも全部デジタル化されている必要があります。切り貼りが一回でも必要ならば、それはオンデマンドとして成り立ちません。全部、フルデジタルにすることが前提であり、フルデジタルワークフローがこれからの印刷、これからの出版のキーワードになると思います。これは印刷会社だけで実現できるわけではないので、出版社の方にもよく考えて頂きたいことです。
例えば校正などにしても、紙を使うのではなく、PDFデータをディスプレイで閲覧することによって行えば、アナログ工程が一つ無くなります。紙の校正が無くなれば、印刷会社の営業マンが校正紙を持っていく必要が無くなります。これにより印刷会社の営業コストが削減できますから、出版コストを下げることに繋がります。
DSFではオンデマンド出版の利用としてハイブリッド方式を提案したいと思います。これは、二刷以後の出版でオンデマンド印刷を利用するということです。初版が二〇〇〜三〇〇部ということでは商業的に見合わないわけですから、初版はオフセットで印刷し、二刷以後をオンデマンド出版するわけです。これによりきめ細かく増刷を行っていきます。しかし、初版はオフセットを利用し、二刷以後はオンデマンド印刷を利用とするなら、初版の時点からフルデジタルで準備をしておかなくてはなりません。
また、逆の考え方として初版テストマーケティングという方法があります。これは初期段階で行う見本配布をオンデマンド出版で行うというものです。市場の反応を見て、初版の部数を決定することができます。また、評判が悪ければ出版を止めることもできます。
そしてこれはDSFだからこそ言うことなのですが、あと一〇〜二〇年後には一〇〇〇〜二〇〇〇部の世界はオンデマンド印刷になります。これは確実です。オフセット印刷は技術的にも成熟しています。現在、ダイレクトイメージングという技術により印刷機上で刷版を生成するという方法がありますが、これはモノクロの世界ではオンデマンド印刷の方が優位にあると思います。だから将来のオンデマンド出版体制の準備として、今から取り組む必要性があると思います。この本質を早く押さえたところが勝ち残ることになります。だから我々も将来この市場を押さえたいと思うから、少々儲けが少なくても取り組んでいるわけです。
これからのオンデマンド出版を考えると、やはりインターネットの爆発的普及ということを見過すことはできません。出版社の方の前では言いにくいのですが、古典の全集というのは二度と世界中で作られることはないと言われています。なぜなら、著作権のきれた古典というのは今、インターネットでいくらでも読めるわけです。「青空文庫」という有名なボランティアのプロジェクトがあります。これは著作権がきれた本はボランティアで入力を行い、誰もが読めるようにしようというものです。これにより古典の全集はほとんどとどめを刺されたと言えるのではないでしょうか。
新時代の印刷のあり方を考えるとインターネットと競合するということは避けられないと思います。
今、PDAで本を読むことができます。私も使ってみましたが、まだ情けないものだと思います。しかし、この分野は確実に進化しています。一〇年前のデジタルブックは重くて、量が少なくて、ほとんど使えませんでした。最近のPDAはインターネットからコンテンツをダウンロードすることができます。どこに行っても、本屋が無くても、読みたいと思った本をインターネットでダウンロードして読めるわけです。こうしたことは既に実現されているわけであり、避けることはできません。
だからインターネットとの統合ということを考えていかなければなりません。XMLなどのデータベース言語を使用することにより、出版物を製作すると同時に、インターネットでも配信するということをしていかなくてはならないでしょう。
しかし、本は無くなりません。無くなりませんが、確実に部数は減るでしょう。大量に読まれるものというのは、恐らくインターネットが利用されるでしょう??課金の問題は別ですが。だからインターネットで売れそうなものはインターネット配信で、オンデマンド出版で売れそうなものはオンデマンド印刷で、従来の書籍として売れそうなものはオフセット印刷でと自由に使いまわしができるようにXMLを使用するわけです。これは、もう少し先の話であり、今後の研究課題でもありますが、インターネットとオンデマンド出版を組み合わせるということは重要になるでしょう。これが将来、主流になる可能性はあります。

 
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資料提供:現代出版株式会社(「印刷現代」8月号)」
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