各社とも、「このままでは生き残れない」という危機意識から様々なビジネスモデルを模索する中で、“便利で汎用的なツール"としてXMLを採り入れている。しかし、一朝一夕で習得できる技術であれば、それは差別化の一手とはならない。XMLを自社の戦術としてものにするには、粘り強い努力を要することも事実なのだ。
XMLに取り組む上で重要なポイント、留意点などについて聞いた。
文久堂の林田氏は「最終的には“楽して儲ける"ための手段となるが、一度着手したら、相当努力しないとやっていけない。また、“他社と違ったことをやろう"という強いチャレンジ精神を持った会社でなければできないのではないか」と述べる。「とりあえずやってみよう」という程度では成功しないということだ。
開明社の岡本氏は「ひたすら勉強あるのみ」と語る。
「次から次へと課題は出てくるし、新しい技術も生まれてくる。いくら勉強しても追いつかないほどだ。そして、そこにかかるコストも大きい。三年ぐらいやっていると、『今までつぎ込んだ額を他に使っておけば、今頃こんなに苦労していないのに』と思うときがある。しかし、なぜ最初に『やろう』と決断したのか、その目的を見失わずに、根気よく続けていかなければならない」
大切なのは、目先の利益にとらわれず、長いスパンで考えること。成果がすぐには現れないだけに、難しいところではある。
コームラの孝行氏は、「XMLを使うとこんなことができますよ、このように便利になりますよ、ということをクライアント側に示していくべき」と、市場に対する啓発の重要性も指摘する。XMLは「目的」ではなく、あくまでも「手段」である。XMLによって変わるのは、最終成果物よりもむしろ「工程」だ。しかしクライアントは、過程より結果を見る。すなわち、印刷会社がサービスや製品を提供する手段としてXMLを使うか使わないかは、それ自体、クライアントにとって大きな問題ではない。それによって何が提供されるのか、どんなメリットを享受できるのかが問われる。
林田氏は、そのために“選択眼"を養うことが必要だと述べる。
「極端な話、安く、速く、きれいであれば、何を使おうと構わないというのが、通常のクライアントの考え方だ。まず、ここを見極めることが重要。XMLを使うか使わないかは、我々の側の問題である。『この商品にはXMLを使ったほうがいいだろう』と思ったら、取り組むべき。使う必要がないと判断すれば、使うべきでない。そのように、まず選別することが重要だ。選別ができるようになるために、XMLを勉強することが必要」
文書のXML化の依頼、あるいはXMLでの入稿があった場合などは、XMLの知識・技術そのものが直接、役立つことになるだろうが、基本的にはXMLを「分かっています」「対応できます」だけではアピール力を持たないということだ。
一方、岡本氏は、XMLは自社のインフラの変革を実現するチャンスにもなると指摘する。
「XMLやデータベースのビジネスは、一社のプロジェクトとしてやるには相当、負担が大きい。そこでパートナー各社とアライアンスを組んで進めているわけだが、当社の場合、その中で自社のドキュテックとの連携にこだわった。それはなぜかというと、社内のインフラを変えたかったからだ。ドキュテックを絡めて新しい事業を立ち上げることで、新しい生産体制が確立できる。そのようにして、営業が仕事を取ってくれば必ず回せる体制に持っていこうと考えた」
つまり、ある部分では収支よりも社内インフラを重視した。その結果、新規営業が非常にやりやすくなったという。
◇ ◇
IT化が進み、クライアントのニーズもますます多様化するこれからの時代に、いかに印刷業としての価値を高めていくか――。XMLはその中で重要なコア技術となるだろう。こうした認識は、業界全体に広まりつつある。にもかかわらず、二の足を踏んでいる印刷会社も多いというのはなぜなのだろうか。
光和テック・藤井英人代表取締役社長は次のように指摘する。
「私も含めた今までの“印刷屋"と、XML+オンデマンドというビジネスをやっている会社というのは、極端に言えば異業種という感がある。マーケットではスパゲッティを食べたいという声があるのに、印刷会社の多くはまだ蕎麦屋だ。そこで蕎麦屋をスパゲッティ屋に変えるとなると、『本当にスパゲッティを上手く作れるだろうか?
中途半端なスパゲッティを作って、元の蕎麦屋まで潰してしまわないだろうか』という恐怖心が先に立ってしまう。勇気のいることではあるが、業種を超えて飛びつけるかどうかが、大きな差になると思う」
また林田氏は「現在手掛けている仕事の中には、XMLを使えばさらに効率良く、低コストでできるようになるものが、必ずあると思う。そこに気付くかどうか。そして『この仕事でXMLを使う』と決めたら、とにかくやってみること」と述べる。
最近では、WEB環境がHTMLからXMLへとシフトすることによって、印刷との融合が実現しやすくなるなど、大きなビジネスチャンスが生まれている。これを逃す手はないだろう。「やれば儲かるし、やらなければ取り残される」。これがメンバーの共通した意見だ。ドキュメント制作やデータのマルチメディア展開などでノウハウを蓄積してきた印刷業にとって、XMLは決して手を出せない領域ではないはずだ。
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