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「XML&WEBを利用したビジネス展開チーム」ミーティングの様子。活発な意見交換が行われる
富士ゼロックスのドキュテックシリーズのユーザーで構成し、オンデマンド時代のデファクトスタンダード作りを目指し研究活動を行うグループ「DSF(Document Service Forum)」の中に、「XML&WEBを利用したビジネス展開チーム」という名称のテクニカル研究会がある。

このチームのメンバーは、オフセット印刷をメインとしている印刷会社から“印刷機"を持たない企業まで、その業態は様々だが、各社とも従来の印刷とは異なった、新たなビジネスモデルの構築に向けて積極的に取り組んでいる。その共通のキーワードが、XMLというわけだ。

現在XMLをビジネスに取り込んでいる会社は、どのような発想からスタートしているのだろうか。そして、実践していくには何が必要なのだろうか。そんなヒントを探るべく、今回、同チームのミーティングを取材し、各社の事例や、XMLに対する取り組み姿勢などについて聞いてみた。

まず、同チームのメンバー各社が取り組んでいるビジネスモデルのうち、最新の事例を以下に紹介してみる。

_文久堂では、「インスタントアンケート」「ぷりバム」「ぐっと楽WEBアップデートシステム」「バリアフリーWEBシステム」「名簿入力システム」と多彩なシステムを開発している。

「インスタントアンケート」は、難解なプログラミング作業を必要とせず、WEB上のアンケート作成画面の指示に従って入力するだけで、簡単にアンケート入力サイトを構築することができるという、アンケートサイト作成支援システムである。作成したアンケート入力サイトのURLをメールに添付して送付するか、自分のホームページにリンク張りするだけでアンケートを採ることができ、データ(CSV/XML)を瞬時に取得できる。

「ぷりバム」は、特別なソフトウェアを使用することなく、WEB画面からフォトデータを送信して自分だけのオリジナルアルバムを自動で作成することができるというもの。

「ぐっと楽WEBアップデートシステム」は、ニュースサイトなどのように瞬時に更新したいようなニュースを、WEB作成ツールを使うことなく、管理画面からいつでもどこからでも更新・変更・削除が簡単に行えるシステム。会社案内などにこのシステムを利用すれば、WEBで更新した内容が瞬時に印刷データとしてダウンロードできるようになる。

視覚障害者対策WEB表示システム「バリアフリーWEBシステム」では、WEBの通常ページを更新・変更・削除するだけで、自分に合った大きな文字を選択して、バックの色も自分の見やすい色に選択した自分用のページも同時に更新され、最新データが閲覧できる。

「名簿入力システム」は、名簿データを入力する際に、同じ原稿を二度入力してベリファイ(照合)することで、校正作業を不要にする。出来上がったデータはXMLなので、WEBにアップすることもでき、索引を作成することも可能。自動組版を利用して名簿があっという間に作成できる。

(資)開明社は、「DocumentLogic」という名称で、WEBをベースにしたPOD版管理・受発注システム、及び社内情報支援・CRM・工程管理・プロジェクト管理システムを提案している。また、FrameMakerで作成されたSGMLデータを自動的にXML変換し、WEBへのマルチユースを実現する、SGML→XML変換プログラムも開発した。

みつわ印刷(株)は、今年のオンデマンドアワード(イノベーティブ技術部門)を受賞した「Chibikki」の“汎用版"を展開している。Chibikkiは、WEB上で日記を書き込んだり他人の日記を読んだりして情報や意見の交換ができるコミュニティサイトで、ここのユーザーが本にしたい日記を選んでオーダーをかけると、オンデマンドで印刷・製本される。ユーザー自身がデータを作成するため前工程が合理化されており、一冊からでも完全自動印刷できる点が特徴である。

(株)コームラは、シラバス入力システムを開発。大学のシラバスをXMLデータベースにより管理する。シラバスは頻繁に内容が変更されるが、インターネットブラウザから検索・編集が行え、WEBサイトへのリアルタイムな情報開示と、自動組版によるスピーディーな版下出力が可能となっている。

以上に挙げたのは、同チームのメンバー企業が取り組んでいる事例の、ほんの一部に過ぎないが、各社ともXMLの特徴・メリットを活かして独創性の高いシステムを考え出している。

各社に、XMLを使ったビジネスに取り組んだ理由について聞いた。

キーワードとして挙がったのは、ワンソース・マルチユースの魅力と、他社との差別化ということであった。

文久堂の林田桂一代表取締役副社長は、「本当の意味でのワンソース・マルチユースが可能になると聞いて、やりたいと思った」という。
「今までは、Aに使ったデータをBにも流用するといった場合、そこでまったく校正が必要ないかというと、そうではなかった。『一つのデータをいろいろなところに流用できますよ』と提案しても、『ただし、校正はしてください』と付け加えざるを得ないのが、すごく悔しかった。XMLを使うと、これが完全な形でできるようになるということで、興味を持った」

コームラも、同じくワンソース・マルチユースをポイントに挙げる。「印刷業はクライアントの持っている“情報"を扱う産業なのだから、上流へと踏み込んでいくほうが強い。そのときに、完璧なワンソース・マルチユースが可能となれば、それが大きな提案材料になる。こうした分野の仕事は、異業種に持って行かれる可能性もあるが、大元を我々が握っていれば、クライアントをつなぎ止めることができる」と述べるのは、同社制作部・孝行成人氏。XMLによって“情報加工業"としての強みを発揮しやすくなった。

みつわ印刷は、SGMLからXMLへという、いわば技術的潮流に乗る形で取り組みを進めてきた。XMLはSGMLほど仕様が複雑でないので、その意味では取り組みやすかったそうだ。総務部・中村秋男氏は、「これからはXMLが世界標準フォーマットになり、しかもWEB展開にはSGMLよりも有力なツールだということで取り掛かった」と述べる。

開明社も、オンデマンドサービスにおける差別化戦略の中核にXMLとデータベースを位置付けた。その経緯について岡本幸憲氏は「ドキュテック導入当初はそこそこ波に乗って仕事をさばいていたが、単価競争に巻き込まれてしまった。そこで、いかに差別化をするかという観点から、クライアントの業務に密着する仕組みを作ろうと考えた」と語る。印刷会社など数社と手を組み、それぞれが得意分野を活かして一つのビジネスモデルを形成していくという、いわゆる“アライアンス"を重視している点が同社の特徴的なところだ。

各社とも、「このままでは生き残れない」という危機意識から様々なビジネスモデルを模索する中で、“便利で汎用的なツール"としてXMLを採り入れている。しかし、一朝一夕で習得できる技術であれば、それは差別化の一手とはならない。XMLを自社の戦術としてものにするには、粘り強い努力を要することも事実なのだ。

XMLに取り組む上で重要なポイント、留意点などについて聞いた。

文久堂の林田氏は「最終的には“楽して儲ける"ための手段となるが、一度着手したら、相当努力しないとやっていけない。また、“他社と違ったことをやろう"という強いチャレンジ精神を持った会社でなければできないのではないか」と述べる。「とりあえずやってみよう」という程度では成功しないということだ。

開明社の岡本氏は「ひたすら勉強あるのみ」と語る。
「次から次へと課題は出てくるし、新しい技術も生まれてくる。いくら勉強しても追いつかないほどだ。そして、そこにかかるコストも大きい。三年ぐらいやっていると、『今までつぎ込んだ額を他に使っておけば、今頃こんなに苦労していないのに』と思うときがある。しかし、なぜ最初に『やろう』と決断したのか、その目的を見失わずに、根気よく続けていかなければならない」

大切なのは、目先の利益にとらわれず、長いスパンで考えること。成果がすぐには現れないだけに、難しいところではある。

コームラの孝行氏は、「XMLを使うとこんなことができますよ、このように便利になりますよ、ということをクライアント側に示していくべき」と、市場に対する啓発の重要性も指摘する。XMLは「目的」ではなく、あくまでも「手段」である。XMLによって変わるのは、最終成果物よりもむしろ「工程」だ。しかしクライアントは、過程より結果を見る。すなわち、印刷会社がサービスや製品を提供する手段としてXMLを使うか使わないかは、それ自体、クライアントにとって大きな問題ではない。それによって何が提供されるのか、どんなメリットを享受できるのかが問われる。

林田氏は、そのために“選択眼"を養うことが必要だと述べる。
「極端な話、安く、速く、きれいであれば、何を使おうと構わないというのが、通常のクライアントの考え方だ。まず、ここを見極めることが重要。XMLを使うか使わないかは、我々の側の問題である。『この商品にはXMLを使ったほうがいいだろう』と思ったら、取り組むべき。使う必要がないと判断すれば、使うべきでない。そのように、まず選別することが重要だ。選別ができるようになるために、XMLを勉強することが必要」

文書のXML化の依頼、あるいはXMLでの入稿があった場合などは、XMLの知識・技術そのものが直接、役立つことになるだろうが、基本的にはXMLを「分かっています」「対応できます」だけではアピール力を持たないということだ。

一方、岡本氏は、XMLは自社のインフラの変革を実現するチャンスにもなると指摘する。
「XMLやデータベースのビジネスは、一社のプロジェクトとしてやるには相当、負担が大きい。そこでパートナー各社とアライアンスを組んで進めているわけだが、当社の場合、その中で自社のドキュテックとの連携にこだわった。それはなぜかというと、社内のインフラを変えたかったからだ。ドキュテックを絡めて新しい事業を立ち上げることで、新しい生産体制が確立できる。そのようにして、営業が仕事を取ってくれば必ず回せる体制に持っていこうと考えた」

つまり、ある部分では収支よりも社内インフラを重視した。その結果、新規営業が非常にやりやすくなったという。

◇ ◇

IT化が進み、クライアントのニーズもますます多様化するこれからの時代に、いかに印刷業としての価値を高めていくか――。XMLはその中で重要なコア技術となるだろう。こうした認識は、業界全体に広まりつつある。にもかかわらず、二の足を踏んでいる印刷会社も多いというのはなぜなのだろうか。

光和テック・藤井英人代表取締役社長は次のように指摘する。
「私も含めた今までの“印刷屋"と、XML+オンデマンドというビジネスをやっている会社というのは、極端に言えば異業種という感がある。マーケットではスパゲッティを食べたいという声があるのに、印刷会社の多くはまだ蕎麦屋だ。そこで蕎麦屋をスパゲッティ屋に変えるとなると、『本当にスパゲッティを上手く作れるだろうか? 中途半端なスパゲッティを作って、元の蕎麦屋まで潰してしまわないだろうか』という恐怖心が先に立ってしまう。勇気のいることではあるが、業種を超えて飛びつけるかどうかが、大きな差になると思う」

また林田氏は「現在手掛けている仕事の中には、XMLを使えばさらに効率良く、低コストでできるようになるものが、必ずあると思う。そこに気付くかどうか。そして『この仕事でXMLを使う』と決めたら、とにかくやってみること」と述べる。

最近では、WEB環境がHTMLからXMLへとシフトすることによって、印刷との融合が実現しやすくなるなど、大きなビジネスチャンスが生まれている。これを逃す手はないだろう。「やれば儲かるし、やらなければ取り残される」。これがメンバーの共通した意見だ。ドキュメント制作やデータのマルチメディア展開などでノウハウを蓄積してきた印刷業にとって、XMLは決して手を出せない領域ではないはずだ。

資料提供:現代出版株式会社(「印刷現代」9月号)」