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林田桂一副社長
(株)文久堂(本社=新潟市新島町四ノ町二二四二‐乙、東京本部=千代田区一ツ橋二‐六‐二/早川幸雄社長)では、来るべきIT時代に備えて一九九六年からフルデジタル化に着手し、WEBやPDF、XMLといった新技術をいち早く研究・採用するとともに、九九年にはドキュテック(DocuTech 135)を、そして今年春にはカラードキュテックを導入。これらオンデマンド出力機とWEBを利用して、数々の独創的なサービスを展開している。
「ぷりバム」の製品サンプル、
A5判12ページに、アクリル板のカバー
文久堂は、昭和三十年にタイプ印刷からスタートした印刷会社で、現在は企画・デザインから印刷・製本までの一貫したフローを整備し、会社案内や名簿、報告書、各種資料などの印刷物制作を総合的に手掛ける。新潟の津島屋工場にCTP・オフセット印刷の設備を集約し、東京本部でドキュテック/カラードキュテックを用いたオンデマンド印刷、およびWEB関連のサービスを行っている。

以前から、組合の会議資料や議案書といった、小ロットで短納期を求められる仕事を多く手掛けていたこともあり、「オンデマンド」はこれまで常に追求してきた。社内のデジタル化、そしてドキュテック/カラードキュテックの導入もその一環で、同社の目指す方向性から考えれば必然的なものであったとも言える。

しかし、同社のオンデマンドビジネスは、従来型印刷の短納期対応だけにはとどまらない。WEBやXMLなどの技術を組み合わせた新しいビジネスモデルを次々と開発し、独自の事業領域を創出しているのである。

その中の一つが、デジタルカメラで撮った写真から簡単にアルバムを作成するサービス「ぷりバム」だ。これは、ユーザーがデジタルカメラで撮った画像を同社のホームページに送信するだけで、アルバムに仕上げることができるというもの。作成されるアルバムはA5判一二ページ、プラスチックのリング製本で、表裏にそれぞれアクリル板を添えた形となる。写真立てのように、卓上に立てておくこともできる。表紙にはタイトルと簡単なコメントを入れられるようになっているほか、写真の飾り枠も数パターン用意しており(順次拡充予定)、自由に選ぶことができる。印刷は、専用紙にカラードキュテックで行い、基本的には注文があったその日に製本まで完了し、発送できる体制となっている。

また、ユーザーが画像を送るとそこからPDFデータが生成される仕組みになっており、アルバムを印刷物としてだけでなく、このPDFデータも添えて納品する。これは、通常の銀塩写真でいえばネガのような感覚で利用でき、焼き増しの際に重宝する。

このサービスは、ユーザー側では特別なソフトをダウンロードする必要もなく、画像をそのまま送るだけでアルバムが出来上がるという簡便さが大きなポイントだ。しかも、カラードキュテックの安定性と、専用紙を使用することもあって品質も良く、完成品を見ると、安価にできるにもかかわらず安っぽさを感じさせない。

「ぷりバム」を利用するユーザーとしては、一〇代〜二〇代の若い世代がまず想像できるが、同社としてはそうした個人利用だけでなく、企業向けにも提供していくという。エントランスページも、個人向け/企業向けと二種類を用意している。代表取締役副社長・林田桂一氏は「『ぷりバム』は、企業向けには良い“プレゼント"になるのではないかと思っている」と述べる。
「たとえば、クライアントの方がゴルフに行かれたときの写真を、アルバムにして差し上げる。こうしたサービスを、逆にこちらの営業活動の一環として使うこともできる。そのようにして、まず現物を作って実際に見て頂くのが、アピール方法としては最も効果的だと思う」

これはまだ立ち上げたばかりのサービスだが、同社ではユーザーの反響を見ながら、このサービスを様々な形に発展させていく考えだ。

◇ ◇

もう一つ、文久堂では会社案内をホームページの更新と合わせて同時作成するというサービスも近く提供開始する予定である。これも印刷にはカラードキュテックを使用する。

営業活動などで、自社の会社案内を提示する機会は多いと思うが、常に「最新の情報」を載せた案内を携帯している会社は、果たしてどれだけあるだろうか。おそらく、ホームページは頻繁に更新していても、印刷物の更新は二〜三年に一度、その間に追加内容などがあれば、ペラ一枚を挿入して間に合わせるといったケースが多いだろう。そこで、ホームページを更新したら、印刷物の会社案内にもその内容を即座に反映させようというのがこのサービスだ。ここではXMLの技術を利用し、ホームページを簡単に更新できるだけでなく、そこに掲載しているデータを印刷物とリアルタイムで共用することを可能にしている。仮にホームページを毎日更新するとすれば、その日ごとに“今日の会社案内"を作成できるわけだ。
このシステムは「必要な時に必要な量だけ」というオンデマンド性と、ワンソース・マルチユースというXMLならではの特長をドッキングさせた好例である。現在、トライアルとして自社の会社案内で実践しながら、クライアントに提案しているという。

東京本部に設置されたColor DocuTech 60
同社がこのように、WEBを活用した新しいサービスを積極的に展開している背景には、従来型の印刷事業で売上が確保できなくなっていることに対する危機感がある。「オフセット印刷の需要は激減しており、前年度の仕事をそのまま継続していたのでは利益が上がらない。これからますます、新しい分野で仕事を増やしていく必要がある」と林田氏は語る。一方でWEB関連の受注は順調に増加しているといい、ニーズの変化が窺える。WEBと印刷を融合させていくことが、オンデマンドビジネスの重要なポイントであり、今後印刷会社が生き残っていくためのカギになる――。それが文久堂の考え方だ。

同社では、実際にWEBを利用したサービスの提供を開始したのは一〜二年前だが、それ以前から、社員がWEBに慣れ親しむ環境を意識的に作っていたという。七年ほど前にイントラネットを構築し、同時にメールのやり取りも始めた。インターネットは就業時間中でも“見放題"で、積極的に利用するよう促している。
「とにかく実際に触れることで、どれだけ便利なものかを体感してもらおうと考えた。私自身も、インターネット上でできることは何でもやってみることにしている。商品の購入や銀行振込、チケット予約など、いろいろ利用してみることで、その便利さが分かってくる。そして、この便利な仕組みを印刷に当てはめたらどうか…というように、アイデアの源にもなる」(林田氏)

また、同社のビジネスでもう一つポイントになっているのがXMLだ。XMLを“データベース"と捉え、完全なワンソース・マルチユースを実現するツールとして活用している点が、大きな特色となっている。これまでにも名簿作成システムや「インスタントアンケート」など、いろいろなサービスを展開してきたが、それらが最近、定着しつつあり、「リピートオーダーを続々と頂いている」という。

しかし一方で、「XMLに関しては、業界でまだまだ浸透しておらず、それが一番の問題だと思う。皆、取り組まなければならないことは分かっているのに、なかなか着手しない。したがって他社との連携がとりづらく、XMLの良さを充分に活かす環境になっていない」と林田氏は指摘する。
WEBやXMLを絡めたオンデマンドビジネスというのは、従来の印刷技術よりもむしろデータのハンドリング能力や発想力、そして新しい営業戦略が求められることになるが、そのための工夫として、同社では毎週、全スタッフを集め勉強会を開いている。そこでは価格問題や工程管理、重要な新技術など、毎回一つのテーマを決めてディスカッションを行い、それによって社員の問題意識・知識レベルの向上を図っている。いわば提案営業のための“下地作り"ともいえる。その結果、たとえばXMLについても、社員の間から「このような形で使えば効果的ではないか」「この仕事にも使えるのでは?」といろいろなアイデアが出てくるようになったという。

また、林田氏自身、営業スタッフとの密接なコミュニケーションを心掛けているとのこと。
「アイデアは自分一人で考えていてもなかなか出てくるものではない。社員の週報やメールに逐次目を通し、疑問に思うところや深く掘り下げる必要があると思われる箇所をチェックしておき、会議の席で話し合う。また成功例として参考になる事項があれば、それも皆の前で発表してもらう。このようなことをしていかなければ、アイデアも湧かないしチャンスも逃げていく」

ビジネスのヒントは日常業務の中にもそれとなく存在するもの。社内全体で知識・情報を共有することによって、それを引き出そうというわけだ。

WEBを利用したオンデマンドビジネスはこのように、従来とは異なった取り組み姿勢が必要になり、その意味で難しい側面もあるが、林田氏は、その一方で様々な利点があるとも指摘する。
「WEB関連の仕事では、受注の際、値段の話は一切出ない。従来の印刷だけならば、もはやどこでもできる時代だから顧客の関心は“値段"に向いてしまうが、他社にはできない仕事であれば、競合相手がいないので、値段交渉にはならない」

同社が蓄積してきたこれらのノウハウは、そう簡単に他社が追随できるものではない。これは、価格競争が激化している昨今の印刷業界において、生き残るための強力な武器になるだろう。また同時に、新規開拓にも非常に役立っているという。
「WEBやXMLなどは、新規の営業の際に有効な切り口となる。そして、そういった仕事を通じて関係を築いていくうち、印刷の仕事まで頂けるようになるケースも多い。初めから“印刷"を打ち出して営業していたのでは、新規受注は難しい」(林田氏)

こうした同社の事例は、印刷産業のこれからの“あるべき姿"を提示しているようにも思える。

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文久堂の今後の展開として興味深いのは、同社がXMLを利用して構築したホームページの一つ、東京法務局のサイトである。

このサイトは、通常のサイズの文字と、弱視者向けの拡大文字の両方を表示でき、さらに背景色も黒と白の二種類を選べるようになっている。つまり文字サイズと背景色の組み合わせで計四つのパターンを用意しており、大元のサイトを更新すると四サイトすべてが同じ内容に自動更新される仕組みになっている。

これを、次なるステップとして、文字のポイント数を閲覧者が任意に設定し、その文字サイズでページが見られる形にバージョンアップする計画だという。つまり文字の大きさを無段階に調節できる仕組みだ。すでに実現の目処は立っており、現在、プログラムの組み方など最終的な検証を進めている。

このシステムが完成すれば、印刷と組み合わせることにより、大活字本などに応用することができる。大活字本は、弱視者向けに通常より大きな文字で組んだ書籍だが、視力には個人差があり、人によって最適な文字の大きさというのもまちまちである。そこでこの仕組みを使えば、一つの組版データをあらゆる文字サイズに展開でき、各個人に合った書籍を、よりリーズナブルな価格で提供できるようになるわけだ。

これはオンデマンド出版に新たな進歩をもたらす技術として、大いに期待できる。

資料提供:現代出版株式会社(「印刷現代」11月号)」