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「XMLは、知れば知るほどその良さが解ってきて、どんなことに使えばいいか、アイディアが浮かんでくる」と語る株式会社東京文久堂の林田桂一社長は、XMLを利用して印刷とWebを共存させながら、データのワンソース・マルチユースを実践している。

林田社長がXMLに着目したのは「自社内にあるデータ類をどう管理していくか」を考えていた時に、「XMLを活用すれば、一つのデータからさまざまに形を変えて出力できることを知り、非常なインパクトを感じた」からだ。現在、XMLを活用して作っているのは、名簿や規約・規定集、報告書、会社案内など。今の時点では印刷物としての受注が大勢だが、Web展開に持っていくようユーザーに提案して行く方針だ。

印刷業界ではXMLへの取り組みが鈍いと言われているが、従来から受注している印刷物を分析して、無理のない形でXMLを取り込み、それを着実にモノにしている姿はこれからの印刷業が歩むべき一つの形態でもある。東京文久堂のデータ入力からXMLデータ作り、組版、出力、印刷までのノウハウを公開してもらった。
XMLをデータベースと捉え、完全なワンソース・マルチユースを実現するツールとして活用している林田桂一社長。 東京文久堂のWindowsデータ処理部門。
XMLの仕事は大きく分けると、@入力を主業務として、ユーザーが決めた仕様に基づいてXMLデータを作成する、A作られたXMLデータを印刷やWebで形にしていく、の2つ。どちらかというと、印刷業界においては、@をXMLの仕事として考えがちだ。東京文久堂では「基本的に入力業務はしない」方針で、「XMLデータを使って仕事をどう創出するか」に力を注いでいる。

またXMLデータの作成やコントロールも別会社のSEグループに依頼している。その理由として林田社長は、「XMLを扱うにはCGIやJavaの知識が必要なので、どうしても敷居が高くなる」こと、さらに、「XMLデータのコントロールは修正を積み重ねたものになり、時間も膨大にかかる。自社内でこなしていると、作業時間も把握できないことになりがち。仕様を的確にまとめてくれる専門家集団に作業をしてもらえれば、システム構築や修正作業にかかった時間や経費が明確で、原価管理がしやすい」ことをあげる。

XMLは専門知識が必要だからと取り込みをあきらめてしまう印刷業者が多いが、「背伸びをせずに」XMLを取り込む、一つの方法ともいえるだろう。
東京文久堂ではSEグループと共同でXMLデータ作成用のオリジナルツールを数種類開発、それらを活用して効率的に印刷物を作成している。XMLを使わない従来の方法と比べると、作業時間もコストも大きく削減。またWeb展開ができる体制も固めてある。
図1●XMLを利用したインスタントアンケート「InstantEnquete」の流れ。難解なプログラミング作業を必要とせず、Web上のアンケート作成画面の指示に従って入力すれば、簡単に「アンケート入力サイト」を構築することができる「アンケートサイト作成支援システム」。作成した「アンケート入力サイト」のURLをメールに添付して送付するか、自分のホームページにリンク貼りするだけでアンケートを取り、CSV・XMLデータを瞬時に取得できる。
まず、250頁からなる、全国800の市の訴訟内容を一覧にした調査報告書。作成には、「訴訟アンケート自動集計支援システム」を活用した。Web上のアンケート作成画面の指示に従ってユーザーに回答してもらう。そのデータは受け取ると瞬時に集計されてCSV/XMLデータとなるので、それをWeb上で管理する。そして最終的にXMLデータを自動組版して出力する。各頁とも表形式の同じ体裁で、自動組版に最適な仕事だ。

従来は、アンケート用紙をFAXで市に送り、市の職員が手書きで記入したものをFAXで送り返してもらい、それを発行元の団体職員が半年近くかけてExcelに入力して集計していた。が、訴訟内容や件数などの項目ごとに抽出して修正を施さなくてはならないので、Excelレベルでは非常な無理があった。

そこでWeb入力方式に変えることになった。しかし、急激に新方式に変えると反発もあるかもしれないと考え、返信はFAX方式でもWeb方式でもいいという形にしたところ、7割がWeb方式で返信されてきたという[図1]。
オンデマンド印刷の仕事はDocuTechで印刷。
7万人の情報が掲載されている『教職員名簿』は1200頁。XMLの活用で入力から印刷まで3カ月かからなかった。
教職員約7万人を学校別に分けて、学年・クラス・自宅住所などを収録した、1200頁の「東京都公立学校教職員名簿」の作成には、二度打ちによるテキスト照合システム「オートベリファイシステム」を活用している[図2]。

「オートベリファイシステム」はWeb上の入力画面から、同じ原稿を第一入力者と第二入力者が別々に入力して、できた2つのXMLデータを照合する方式。照合して違う箇所があると赤く色が付き、編集可能になるので、その部分の原稿を確認してから修正する。

2人の入力者が同じところを間違える確率は非常に少ないので、2人目が入力した時点でほぼ完璧なデータが仕上がっているというわけだ。つまり入力すると同時に自動校正を実現していることになる。

二度打ちは無駄な作業のようにも感じるが、「7万人分の情報の校正時間と費用を考えると、この方式の方が早い」という。この「オートベリファイシステム」は林田氏の発案で名簿作成のために作ったものだが、汎用性を持たせて販売も行う。

販売するシステムは管理頁から作成できる仕様になっていて、Web上の項目入力画面でレイアウトと項目の情報を入力すると、次にどんなフィールドを作るのかを聞いてくるのでそれに沿って作り込んでいくと、自分で入力サイト画面が作れるようになっている。入力と同時に管理フォルダーにデータが格納され、新鮮なデータをWebで閲覧したり印刷に持っていったりできる[図3]。


従来、この名簿は前年データに修正を施すことで新しいデータを作成していた。しかし、人事異動でほとんど毎年、新規入力と同じような状態になるため、7万人分の入力業務と校正作業には膨大な時間と費用がかかっていた。

今までは4月に入稿して7月にできあがるというスケジュールだったが、「オートベリファイシステム」を活用することで今年は6月一杯でできあがった。1カ月の短縮が可能になったわけだ。

名簿の入力は外部に委託し、XMLを自動組版してPostScriptデータで出力し、DocuTechでのオンデマンド印刷をも可能にした。
データベースソフトの導入に備えて、Webサーバーを充実させた。
調査報告書も名簿も、ある自動組版ソフトで出力したが、かなりのスキルが必要で自社ではこなせず、結局そのメーカーに外注委託することになってしまった。そこで次回は株式会社モリサワのWindows対応自動組版ソフト「MDS-B2」を導入して、自社内で作業をすることに決めて現在、準備を進めている。「いろいろな自動組版システムがあるのですが、組版設計も、操作性も非常に難しい。MDS-B2に関しては社員2名を研修に行かせた結果、オペレーションできそうだということで導入を決めました」という。

XMLの組版システムとしてMDS-B2を選んだ理由は「操作性がよく、何よりXML自動組版では唯一外字を取り込める点」に魅力を感じたからだという。「地名・個人名は非常に外字が多い。略字でいいケースも多いが、名簿などではどうしても外字を使わなくてはならないケース」がある。その点、モリサワは約2万字の外字セットを用意しているし、印刷に耐え得る高品質な外字を提供している。東京文久堂の実践しているWeb画面入力システムではWeb対応の外字は必須だ。

さらに三井物産の「NeoCore(ネオコア)XMS」というデータベースソフトを導入する予定もある。NeoCore社の独自特許技術Digital Pattern Processing(DPP)が提供する超高速性、安定性は「従来のXML技術の中では考えられなかった、もっと自然でもっと快適なシステムです。それに伴いWebサーバーの充実を図りました」。
XMLデータと自動組版は親和性があるが、XMLデータを自動組版に持っていくには、かなりの難しさが伴う。林田社長はそれをどう感じているのか。

「現在、販売されているXML組版システムは、XML専用でなく、もともと単なる自動組版システムのように思えます」。そこで、自動組版に持っていくのにタグを変換する必要がある。

XMLデータは一つひとつのデータがタグで囲まれてできているが、「これは組版のためのタグではなく、データベースデータとしてのタグです。名簿のXMLであれば、名簿という第1階層下に氏名、住所、電話番号などのタグを入れた階層構造を決めなくてはなりません」。自動組版をするためにはXMLのタグではなく見出しや、小見出し・本文の命令をするコマンド、例えば見出しは「明朝体10ポイントの中心揃え」という情報を入れたスタイルシートを作り変換する必要がある。つまり、「自動組版用にXMLデータを変換させるのにオペレーターは戸惑い、時間がかかってしまうんです」。

ただし、スタイルを決めてしまえば、自動組版はデータを流し込むだけで組版ができてしまう。「入力データをもらい、それをXMLデータとして確保するまでの部分はSE集団に頼むが、できたデータを印刷に持っていくまでの作業は自社でこなしたい」と考えている林田社長はMDS-B2での展開に大きな期待を寄せている。
東京文久堂ではXMLや自動校正システムを活用していることを知らせていないユーザーがいる。ワンソース・マルチユースが実現できることを「見える形」にしてから提示しようと考えている。

たとえば、教職員名簿には名前の索引が付いていない。索引のない名簿は名簿として機能しにくい。そこで、クライアントに索引を作りませんかと提案すると、手間もかかるし頁も増えてコストアップになるから必要ないと言われるのは目に見えている。

しかし、索引のない名簿は付加価値が下がり、そのうちに名簿は必要ないという話になるだろう。価値のある名簿にするために、データがXML形式になっていれば、検索機能を付けたデータをCD-ROMに収めてパソコン上で検索したり、Webに流せばWeb上で検索したりできると提案したいと考えている。

Webで公開するまではしなくても、CD-ROMになっていれば少なくても組合内部で検索できるようにはなる。

新たな提案をすると、必ずコストアップが問題になる。値引きをする代わりに、「XMLを活用することで当社でも時間短縮ができたので、従来と同じ価格でCD-ROMを付けますよ」という形に持っていこうというわけだ。

林田社長がXMLを手掛けているのは「印刷物の需要が今まで通りにあるとは思えないから」だ。たとえば、「伝票もWebに変わったら、必要がなくなります」。では、Webに変わったときにどう考えるかだが、「帳票形式ではなくて、Web入力画面からデータ自体を入力して、それをデータベース化しておいて、顧客にExcelデータとして渡す」方法も考えられる。つまり「データを管理していくことで仕事を積極的に確保していこう」という発想だ。

これだと、たとえば受注額が安くなったにしても、「仕事を変化させて受注したので、その後の広がりがある」。しかし「従来の仕事のままで停滞していたら、不要な印刷物になってしまう」。

林田社長は自社の営業マンに、仕事を受注するときは「誰が何のために、いつ、どうしてその印刷物がほしいのか、調べてくるように言っている」という。それを追求していけば、クライアントに向けて、XMLを活用した新たな仕事の提案ができる。
従来の仕事のマルチユース化を実現していく一方で、当然、新規開拓にも積極的に取り組んでいる。XMLをベースにしたWeb上のオリジナル自動更新システムや、Web上で拡大文字が自動発生させられることをセールスポイントにして、XMLによる新展開を顧客に提案している。



図4●XMLを利用して、Webと印刷物を自動更新すると、「今日の会社案内」ができる。

そのうちの一つが「TODAY'S COMPANY INFORMATION」。紙媒体の会社案内と、Web用データを一つにしてワンソース・マルチユースを実現するものだ。

Webの更新には通常、ドリームウィーバやフロントページなどのWebサイト作成ツールを使うが、このシステムはXMLデータを利用して更新するため、ネット上に管理ページを置いてそこから新規作成や変更・削除などの操作ができる。管理画面でWebでの情報を修正すると、印刷データも瞬時に更新できる。Web用にはXSLデータで出し、印刷用にはPSデータとして出力できるので、日々、最新情報を掲載した会社案内が作れる[図4]。

非常に手軽で、取り組みやすいシステムでもあり、需要の広がりが期待できる。



さらにXMLを利用してフォントのサイズや背景を自由に変更できる「自在文字:拡大文字自動発生システム」もオリジナル開発した。文字サイズコントロールパネルで自分の好きなフォントサイズを選択でき、Pixel、Point、mm、cmで変更できるという優れものだ。


XMLに取り組むまで1年半かけて、自らXMLを学んだという林田社長は「日々変化するデータをいかに、いつも新鮮な状態で保存しておくことができるかが非常に大切だ」と指摘する。そこに印刷会社のメリットを持たせながら、Webと印刷物の更新の融合化を実現していく。そしてそれを受注に結びつける。「私は、印刷はもっとオンデマンド化すると考えています。オンデマンドの最も弱い部分は組版ですから、その組版の変更部分にユーザーがある程度自分でタッチできるような、解りやすいXML活用のサービスを提案していくことが大事だと考えています」。

〈取材:小川好子〉

株式会社東京文久堂:名簿・規定集・書籍・報告書・会社案内・パンフレット、Webの企画から印刷までをこなすトータルメディアプロバイダー。XMLによるデータベース利用システムでワンソース・マルチユースサービスをめざす。またオンデマンドプリントを取り入れている。東京都千代田区一ツ橋、社員15名。株式会社文久堂の東京部門が前身。
資料提供:株式会社印刷出版研究所
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