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マス・マーケティングからの脱却、多様化するニーズへの対応、極論はOne to Oneマーケティングへ――顧客満足のためには、より個に焦点あてたカスタマイズが要求されるが、ビジネスである以上採算性も不可欠だ。量産が基本の印刷においてOne to Oneを実現するのであれば、オンデマンド印刷が最有力手段の1つだろう。

そして今、このオンデマンド印刷によって、これまでは量産が前提という構造的な「壁」に阻まれてきた市場が動き始めている。視覚障害者の約7割を占める弱視者(矯正視力0.04〜0.3)の読書を支援する大活字本出版。20万人のニーズに応えるものになる。2003年7月1日、以前小誌で紹介したDSFが視覚障碍者読書支援協会(BBA)と協力、XEROX DocuTechで印刷・製本した大活字本「BBS文庫」50タイトルを筑波大学付属盲学校へ寄贈した。

28ポイント(およそ40級)で縦・横の太さが等しいゴシック体を使用した書籍。通常の雑誌や書籍で使用される9ポイント(13級)の文字と比較すると、大活字本で使用されるフォントサイズは約3倍にもなる。

今回寄贈された書籍は全部で50タイトル。その内容も文学作品からエッセイ、小説など多岐にわたっている。例えば…

壺井栄『二十四の瞳』(全3巻)
井伏鱒二『さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記』(全3巻)
遠藤周作『深い河』(全4巻)
群ようこ『働く女』(全2巻)
宮尾登美子『朱家』(全8巻)
赤川次郎『晴れ、ときどき殺人』(全3巻)などなど。

通常フォントを使用した文庫であれば、厚さは異なっても1冊で収まる内容だが、大きな文字で行間も広めにとってある大活字本では、同じ内容でも数冊にわかれる。今回の寄贈書でもっとも多いのは宮尾登美子の著書で全8巻。A4版サイズの大活字本は1タイトルでも分量は大きくなる。
「およそ30万人の視覚障害者のうち、全盲者の一部、3万人は点字を読むことができます。しかし、見えにくくても自分の目で文字が読める人はやはり視力を頼りにしており、点字は読めません。そのような20万の弱視者への緊急措置として、書籍を拡大してモニタに写し出す拡大読書器が用いられてきました。

ところが緊急措置だったはずの拡大読書器が、いつの間にか当たり前になってきているのです」とBBA会長の浦口明徳氏はいう。

通常印刷を生産手段として、少部数でかつ1タイトルが数冊にわたるという「多品種」ではどうしても製造コストがあがってしまう。また、著作権などの問題もある。それらが依然、弱視者にとって最良の読書環境となる大活字本の普及を妨げている。そしてそのしわ寄せは結局、ユーザーである弱視者にきているのだ。

点字教科書は、文部科学省によって基本5科目は発行され、その他の教科についても民間企業によって、小学校から高校の必要教科すべてがカバーされている。もちろんそれらは盲学校において無償で配布されている。

しかし、拡大教科書で、現在発行済みとなっている教科は小・中学校の国語、算数(数学)、英語(中学のみ)で、社会、理科は一部のみ。しかもその発行はすべて民間企業に頼ったもので、その他の教科への対応はなされていない。この発行済教科書は、盲学校へ通う生徒に対しては、無償で配布されている。

2002年の法改正で弱視児の通常学級への就学が一部可能になったことから、通常学級へ通う弱視児は1000人を超えるといわれる。

ところが、こういった盲学校ではなく通常学級へ通う生徒に対しては、義務教育でありながら拡大教科書の取得は有償となっている。その額は1教科あたり数千円から数万円に及ぶが、すべて保護者負担となっているのが現状だ。「弱視児の通常学級への就学を認定するのは地方自治体であり、国として拡大教科書の費用負担はできない」というのがこの理由らしい。

平成14年度の審議で法改正を決定したことにより、拡大教科書作成における難題の1つだった著作権問題は解決した。しかし、それを通常学級と同じ水準で、弱視児に例外なく無償配布させるにはまだまだ問題がある。

「弱視児は、文字の大きさ、行間の広さ、地と文字の色など、それぞれ見えやすい形態が異なります。授業で扱う配布物のコピーも、生徒ひとりひとりの最適条件に合わせて作成しています」と筑波大学付属盲学校の宇野和博教諭。22ポイントで、文字間を少し詰め、行間をあけるのが「(ニーズの)最大公約数」として通常使用するスタイルだというが、それぞれのニーズに応じた教科書、参考書、書籍があれば、それこそ最良の学習環境となる。

通常授業でも、配布された教科書に目を近づけて読む生徒、ルーペを活用する生徒、白黒反転や文字サイズ調整などが可能な拡大読書器で読む生徒と、その学習スタイルもさまざまだという。同じスタイルの教科書を利用するため、生徒が現状で使用できるツールを用いることで、各自の最適環境をつくり出しているからだ。拡大教科書も、最終的にはそれぞれにカスタマイズしたものができればベストだろう。
「使用者によって書体やポイント数を変えた印刷ができるデジタルオンデマンド印刷であればワントゥワンも可能」とはDSFのオンデマンド出版チームリーダーの渡利孝由氏(みつわ印刷常務取締役)。

今回寄贈された大活字本は、昨年に寄贈した50タイトルに続くもの。BBAが所有する「拡大写本」化への著作者許諾済み書籍データ約550タイトルから、新たに厳選された50タイトルをDSFがXEROX DocuTechで印刷・製本したものだ。同校内の図書館には、一般図書、点字図書、大活字本とともに、前回分とあわせ100タイトルの「BBS文庫」が並ぶことになる。
「生徒には読書に対する『アレルギー』があるようです。拡大読書器は自在に文字を大きくでき、内容を把握するのには確かに有効ですが、これは本の一部を小さな穴からのぞいて見るようなものです。非常に目を使い、頭が痛くなるといいます。これでは読書とはいえません。本来読書とは、大きな字で、全体を見ながら読むものではないでしょうか。
今回寄贈していただいた書籍を含め、大活字本によって、読書における1つのバリアがとれます。生徒達の人生を一層豊かにするための入口にもなります。これを活用して、生徒達に本を好きになってもらえればと思います」と同校、飯野順子校長はいう。
「需要がないから供給しない、ではなく、供給があるから需要が生まれるのだと思います」とはBBAの浦口氏。

BBAとDSFの協力活動によって作成された100タイトルの大活字本は、前回と同様に名古屋盲人情報文化センターへも寄贈された。同センターでは、全国への大活字を含めた書籍の貸し出しサービスも行うという。

これにより、読書を敬遠していた生徒や、これまでその存在を知らずに読むことを避けてきた潜在的ユーザーに対して「新しい風」を送ることができる。世の中に溢れる書物に対して興味が向くかもしれない。ニーズは必ず膨らむだろう。だからこそ「まずは供給すべき。その環境を整えることが大切」と浦口氏はいう。

DSF:
導入した富士ゼロックスのDocuTechでいかにフルデジタルオンデマンド印刷の効果的な活用を実現するか。これを最大のテーマにユーザー会から発展、テーマ別の研究会を発足。「大活字本――オンデマンド出版チーム」はそのひとつ。同会メンバーは現在、32社となっている。

資料提供:株式会社日本印刷新聞社(「印刷界」2003年8月号)」