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新たな市場の可能性は顧客ニーズから始まる デジタル印刷の現状と未来を語る- 富士ゼロックス DSF(Document Service Forum) -
 
 創立10周年を迎えた富士ゼロックスのユーザーによる「ドキュメントサービスフォーラム(DSF)」が、6月8日、ホテルグランビア京都で10周年記念式典を開催した。10年前、当時の富士ゼロックス理事・吉岡七五三氏(現・富士ゼロックス総合研究所)による「新サービスの文化形成を」という呼びかけのもとスタートしたDSFも、今や会員数50社の規模に拡大した。今回の10周年を期に、長きに渡りDSFを牽引してきた元会長の中西秀彦氏と元副会長の渡利孝由氏が退任し、新たに林田桂一会長と米田和秀副会長が誕生したことは、混沌とした黎明期から発展期へとデジタル印刷市場が確実に進んでいる事を感じさせた。本稿では、DSFの事務局として活動を支えてきた富士ゼロックスのプロダクションサービス事業本部・栗原博事業本部長をオブザーバーに迎え、新たな可能性が期待されるデジタル印刷市場へ積極果敢に取組むDSFの林田会長と米田副会長にデジタル印刷市場の可能性と未来について伺った。

《本紙》 DSFでは、様々な視点からデジタル印刷の可能性にチャレンジしていると思うのですが、デジタル印刷へ取組んだきっかけと、デジタル印刷のニーズについてお聞きします。

富士ゼロックス プロダクションサービス事業本部 栗原博事業本部長
富士ゼロックス
プロダクションサービス事業本部
栗原博事業本部長
《林田》 私がデジタル印刷を意識し始めたのは8年位前のことですが、実際にドキュテックを導入したのは7年位前で、まだ需要はありませんでした。それでもやらざるを得ないという気持ちで、無理やり導入したというのが実状です。
 現在、社内で制作しているのはデジタル印刷のみです。オフセットは外注で、と完全に切り分けて対応しています。オフセットの仕事はほとんど減らないのが現状で、7割を切り始めたかな、というところです。
 最近では、デジタル印刷とオフセット印刷との境目もなくなってきていますが、オフセットとデジタル印刷との違いの1つは品質です。議案書など少し写真も入った二、300部〜500部位の文字物をダイレクト刷版で刷る場合、1度版下を出力し、それをスキャニングするので網点が沈みます。ところがデジタルデータで流してしまえば、きれいに出力できます。
 印刷の営業マンにはデジタルデータの方が低品質だ、という先入観があると思います。そういう認識のままの営業マンが「デジタルではいけない」と勝手に思っている事も、市場を停滞させる要因になっていると思います。
デジタル印刷とオフセット印刷では活用メリットも変わってくると思います。名簿制作では、オンデマンドとオフセットを使い分けています。学校用の名簿の場合、昨年のデータをお預かりして、ドキュテックで原稿用に出力し、それをワンセットずつ学校に配布する。それが戻ってきたら、Webで入力して、自動組版に流し込み、校正はドキュテックで出力して、校正の結果、「OK」が出てからオフセット印刷する、という流れです。
 名簿に関しては、個人情報保護への過剰な反応のため、仕事が無くなることも予感していました。
しかし、教職員名簿については、5年前、すでにデータをXMLに換えていたので、住所を省いて簡素化し、掲載内容は学年、職業、名前に限定して、索引をつけましょう、という提案をすることにしました。加えて納品後に、校長名簿、教頭名簿、あるいは音楽の先生名簿というものが出来ますよ、と見本を作って見せました。その結果、データは弊社で管理して、注文を受けたら1部ずつ販売するという話にまとまりました。これはデジタルが上手く機能した仕事でもあると思います。

データ流通、個人情報保護、個人市場がデジタル市場を押し上げる


《米田》 弊社がデジタル印刷に取組んだのは、日本にドキュテックが登場した1995年で、それまでアナログの高速機でサービスをしていていた部分をシフトすることにしたのが始まりです。
 その後、カラーオンデマンドが登場し、2000年に「カラードキュテック60」を導入しました。それに併せてカラー印刷からシフトするためのカタログ制作など色々な提案をしてみましたが、システムも発展途上ということもあってか、実りませんでした。
 「オンデマンド印刷」という言葉から、「デジタルプリンティング」と言われるようになり、「デジタル」という言葉も定着し始めました。お客様の理解も浸透し、品質も向上してきたので、再トライしようというのが現状です。
 今後は在庫を持ちたくないとか、更新の多い需要などの商業印刷分野を取り込むという事業が、第二世代の機械でできそうだなと期待しているところです。
 弊社のビジネスの形態は、企業の中に入ってサービスを提供するインプラント型です。企業内印刷のような場合、品質よりも手間のかかる仕事を受け持つというニーズがあります。顧客にとって「頼めばやってくれる」という感覚です。子会社同士や他社の事業同士の合併などがあれば、本番の印刷物が出来上がるまでに300部とか500部を間に合わせて出して欲しいというニーズがあります。そうした対応で評価を頂き、「もう一回お願いしよう」という依頼も多いです。

《栗原》 なお新しい取組みにあたっては、エピセンターを多くのユーザーの方に活用して頂いております。あくまでもお客様のビジネスモデルのヒントや事例、教育のお手伝いという位置づけですが、そこで得たヒントなどを汲み上げて頂いて、ご自身のビジネスの中に入れていく、あるいは膨らましてもらうことをお手伝いさせて頂いています。
 弊社は常にデジタルの可能性を考えているわけですが、本業は商品をつくり提供することです。しかし単に「性能が良いので買って下さい」ではなく、どういうビジネスができるのか、他の可能性が考えられないかということをご提案していきたいと思っています。 単にプリントするだけでなく、付加価値を付けて頂くことで新たなビジネスの拡がりがあるのではないかと思っているからです。

《本紙》 デジタル印刷の特長、あるいは強みは何でしょうか。

DSF 林田桂一会長
DSF 林田桂一会長
《林田》 品質と生産性に関してはシステムに依存するしかないのですが、コスト面については、オフセット印刷物よりも高いから売れないということはないと思います。
 デジタル印刷の強みを感じているのは営業担当者が育ち、徐々にバリアブルの仕事を取り始めてきていることです。例えば、年賀状3,000枚の受注から、色々な展開に繋がった事例があります。
 3,000枚の年賀状を受注する時、データを「整理してあげましょう」という話になりました。するとそのやり取りを隣で聞いていた他の部署からも依頼があり、受注した枚数が24,000枚に上りました。
 それが非常に喜ばれて「かもめーる」もやることになりました。そこでは前もってデータを作る提案をして、統一したパターンで協力して頂きました。非常にスピーディーに出来て、作業が少なくなり料金面でも発注側にメリットのある結果になりました。
 またある時は、窓販で営業をかけられないお客様があるので、営業活動として月1回お便りを出したいという依頼がありました。効率化のため窓封筒に統一することを理解して頂いて、中味だけバリアブルにして、スポットで制作することになり、今も月に3〜4,000通出ています。
 次には商品の購入者に「サンキュウメール」を出したいという話が出てきました。発注者は、個人向けのため今までの封書とは違う体裁を要望しましたので、封筒を折って立てかけると、キャラクターの抜き型が出てきて「〇〇さん、ありがとう」というメッセージを伝える印刷物を提案しました。すると即「OK」が出て、毎週50〜100通ほどコンスタントに受注するようになりました。
今ではその企業の役員室から手描きの筆耕まで依頼されるようになりました。これらは全て1社から出た仕事です。数万円から始まった仕事が、今では数十万円の仕事になりました。年間にすると何百万円です。バリアブルは、単価は小さいですが1個の利益率は高いので利益が上がります。
 こういう展開は話し合いの中から出てきたものです。業種によってハガキでないとダメ、高価なものではダメ、封書に入らないとダメとか限定された中で作らないといけないので難しい訳です。そうなると顧客も相談するところがないようで、サンプルを作って持っていくと喜ばれます。

《栗原》マーケティングのお手伝いをしているということでしょうね。バリアブルで小回りがきくうえに、色々と気軽に相談にも乗ってくれて、すぐアイデアを持ってきてくれるとなると、仕事のサイクルの中に入っていくのだと思います。
 デジタルプリントの場合、待っていれば最初から何万枚という受注がくるという訳ではありません。
 ご提案することで少し発想が広がって、発注側と受注側が活性化されて、更に次の仕事になる、という相乗効果になっていると思います。

《米田》 デジタル印刷の市場開拓ということで大手企業の中で感じるのは、個人の集合体であるという事です。写真一つ、名刺も個人向けのものをやるかやらないかという判断が必要なのですが、メニューに表示していなくても「出来ますか」と問合せがきて対応したことで、クチコミで広がりはじめている需要もあります。
 そういう経験からも、顧客に満足してもらえることが、通常の仕事との相乗効果になるのなら良いのかなと思います。失敗して「あそこダメ」と言われてしまうリスクもありますが、バリアブルのサービスを個人レベルで喜んでもらえれば、結果的に顧客企業に貢献できるのではないかと思っています。

《本紙》 Webの存在感が増し、印刷と競争する部分、協業する部分が現れています。

DSF 米田和秀副会長
DSF 米田和秀副会長
《林田》 弊社で提供している「今日の会社案内」というサービスは、Webと印刷を完全融合させているものです。XMLになっているので、Webのデータを更新するとPDFで同じ内容で吐き出されるというものです。
 一見すると印刷物の需要が減るのではないかと感じるかもしれませんが、実は必要な分だけ、今日欲しい分だけというオンデマンドのニーズにつながります。このシステムは、ある出版社の新刊本案内に使うシステムとしても採用されました。Web上で新刊内容がどんどん替わる、リーフレットのような使い方です。
 今、一番得意分野としているのが、Web上で調査するシステムの構築です。XMLデータに変換させて、データを取り込んで、印刷物にする前段階まで持っていき、PDFにも生成できます。出力時に何百という単位で一度に刷っていたのを、その都度、最新版だけ刷る方法を提案しました。開発することから生まれるメリットを理解して頂いて、以来、ずっと何らかを構築しています。

《米田》 弊社の場合、Webを活用して名刺をやってみましたが、うまく動きませんでした。Webを使って、ブラウザを見て、確認してから発注するだけというものでしたが、定着しなかったのです。再びFAXで入稿がきたり、「同じ建物の中にいるのだから来てよ」と言われたりしました。つまり、顧客企業との関係の中で適材適所の活用方法というものがあるのかもしれません。

《本紙》 デジタル印刷でUVニスコーティングのような付加価値印刷の可能性もあると思います。

《米田》 企業内ニーズとして、入館証、IDカードなどのクイック発行業務があります。大手印刷会社に発注すると1カ月以上の時間を要し、納期・コストともに課題となっています。こうした顧客に密着したセキュアなサービスを受託することができれば、一層の信頼を得ることができます。検討をしていた折、ドキュカラー1256を活用し、クイックな発行に対応できるパートナーと出会うことができました。
 また、組織改正やレイアウト変更に伴う、サインプレートの需要も多く発生します。これもやはりクイックかつ低コストがユーザーニーズなんです。我々の存在価値は、「いつでも頼めばなんとかしてくれる」というお客様の安心、安全の源であることなのです。

《栗原》 ドキュカラー1256はどちらかというとカンプ用のプルーフに使って頂いている企業が多く、その分野で圧倒的なシェアのあるシステムですが、プラスチック等にも印字できるのでカード制作にも向いています。弊社の社員証もそれで制作しています。
 オフラインの加工としては、iGen3では、デジタル印刷した後にニスを載せる、箔を押すということも可能です。まだ日本市場に出ていませんがUVコートもできます。こうしたニーズも増えてきていますし、先々には応えていきたいと思っています。

《本紙》 デジタル印刷の成長性についていかがでしょうか。 《林田》 印刷市場を拡大するためにも、今はデジタル印刷しかないと思っています。日本市場がこれだけ伸びない原因は、ユーザーにあるのではなく、出力業者の意識にあると思います。
 印刷の営業マンの提案如何でもっと市場は加速すると思うのです。

《米田》 当初はオフセット印刷とデジタル印刷では品質に差があったのですが、最近はそれもなくなり、今や多用途性や融通のよさを持つデジタル印刷が注目されています。
 ただし短納期だけで攻めてしまうと、業務が忙しくなるばかりですから、その辺の認識も必要です。
 色が少しついたからカラーの料金になるという事ではなく、本来の意味でお客様に最適な印刷について理解して頂かないと、だんだん市場がおかしくなっていく可能性があるのではないかと思います。

《林田》 先日、海外から、日本でアライアンスを組むために、JDFが使える企業がないかという問合せがありました。ところがオンデマンドでJDFをやっている企業は皆無に近く、JDFに対応している国内の印刷会社は数社しかないのが現状です。
 JDFというと、入り口から出口まで全部デジタルですが、例えばゼロックスの「ヌーベラ(Nuvera)」で簡潔な対応で良いというのが私の意見です。

《米田》 海外企業との連携の可能性もあると思いますが、一方でお客様の海外進出と同時に、印刷も流れてしまう脅威があります。しかし質の面では、海外の印刷よりも日本の印刷のほうが上だと思いますから、海外に進出した日本企業のサービスはどこかが対応しないといけないし、一緒にやってほしいというニーズはあるかもしれません。

デファクトスタンダードの確立と拡大文字の事業化目指す


《本紙》 DSFが十周年を迎えました。今後の活動目標などをお聞きします。

《林田》 今、DSFで最も誇れるのは垣根が非常に低くなり、隠し事が無くなっているということです。どの会員企業も自社の事をしゃべりまくります(笑)。話すことでもっといいものを作ればいいじゃないか、という意識が浸透しているのだと思います。

《米田》 また横の交流が活発なのも特長で、経営者以上に幹部社員や従業員同士が交流しており、時には社長の悪口をネタにする程、お互いの社長のことを良く知っています。 
 今後、気を付けていきたいのは、新しい会員が入りづらい会にはしたくないということです。

《林田》 この会はお膳立てはないですが、ゼロックスさんの行き届いたサポートのもと、会員による自主運営で動いています。
 目標として、前会長の中西さんもずっと言われていた、デファクトスタンダードの確立があります。DSFならではの連携をとれる大きな仕事を共有で受注できるようになりたいです。
 また、弱視者向けの拡大文字の本の制作も商業ベースに乗せたいと思っています。ボランティアで名前を確立させて、全国ネットで配布するルートを作り、財団のような形でテキストをプールしておいて、そこから発行する「DSF文庫」のようなものも出来れば一つの事業として大成したことになるのではないかなと思います。

《米田》 更には、オープン性をうまく引き出して、人材の交流、育成なども行っていきたいです。技術のデファクトスタンダードと人材のスタンダードなどのようなものを構築して、お互いの交流によってさらに伸びるようなものにしたいです。
 拡大文字の本の寄贈活動は、社会貢献という意味で、会員にとってもすごい影響力があります。それを良い意味で商売にも繋げることが出来たら、なす事全てが良い方向に向かうと思います。

《栗原》 DSFはこれまでの十年間という時代の流れの中で、会員の皆様が色々と考え、あるいは方向性を決めて進んできたと思います。これからも事務局として変わらず支援させて頂きたいと思っております。またメーカーとして、デジタルプリンティングを広げるという意味において、会員の皆様にアドバイスを頂きたい事もあるわけですが、会員の皆様をお客様として見た時、精神的拠り所とさせて頂くという意味でも期待しております。
 
資料提供:ニュープリンティング株式会社 プリテックステージニュース 
2007年(平成19年)6月25日