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 日本においても、オンデマンド印刷を専業とする企業が登場している。ここで紹介する企業は、その名もずばり(有)オンデマンド印刷(名古屋市中区大井町二−三/生島敏男社長)。オンデマンド印刷専業では、恐らく最も歴史のある企業の一つだろう。同社の生島社長はドキュテックが登場した当初から、リアルタイムでオンデマンド印刷に触れてきた。
※1 生島社長とゼロックス社との関係はさらに長く、三〇年にも及ぶ。
※2 現在も生島社長が代表取締役を務めている。
※3 同社設立においては自己資金の他、印刷会社も出資している。また、パートナー企業には一般印刷のクイックス社、カラーオンデマンドをメインとするプレストークなどがある。
 生島社長は「一般の印刷のことは全然知らない」と語るが、異業種と印刷のDNAがうまく融合したことが成功の大きな要因にもなっている。
  同社は今年度のオンデマンドアワードに入賞している
(写真は授賞式での生島社長)。
生島社長とドキュテックの出会い※1は、工作機械メーカーであるオークマ(株)に在籍していた九三年まで遡る。当時、オークマでは自社製品のマニュアルの製作・管理において悩みを抱えていた。同社が取り扱う工作機械は多品種であり、当然、同社が製作するマニュアルの点数も多くなる。しかし、マニュアル一点の部数は基本的に少部数であり、オフセット印刷でこの少部数のマニュアルを製作すれば、非常にコストが掛かる。だがコストに見合うだけの部数を印刷すれば、山ほど在庫を抱えなければならない。また、製品は時と共にバージョンアップされていくものだが、このバージョンアップ毎にマニュアルも改訂していけば、在庫のマニュアルは処分しなければならなくなる。

 この悩みを解決するために、生島氏は発売されたばかりのドキュテックに着目した。この機械を導入すれば、その時に必要な部数のマニュアルを自社で製作することができる。無駄な在庫を抱える必要もなくなり、機械のバージョンアップにも対応できる。オークマはドキュテックを導入し、自社製品のマニュアルを製作する子会社(有)オークマビジネスサポート※2を平成六年に立ち上げた。社長には生島氏が就任した。

 このオークマビジネスサポートが生島社長にとってオンデマンドビジネスの第一歩となった。そして、ここで実際にドキュテックというオンデマンド機に携わり、そのノウハウを蓄積し、平成八年に一つの独立した企業として(有)オンデマンド印刷を設立する※3

 では、生島社長はドキュテック、そしてオンデマンドビジネスにどのような可能性を感じたのだろうか。社長はドキュテックに対して一番最初に着目した点は「在庫をハードディスクに格納することができること」と述べている。この言葉からは、マニュアルや報告書といったドキュメントに対する価値観が、印刷物という“物”から、デジタル化された“情報”へと変化したことが窺える。現在のようにデータベースなどが一般に使われていなかった時代は、マニュアルや報告書といったドキュメントを保管しておく方法は印刷物のように、物として保管しておくしかなかった。しかし現在、ドキュメントはデジタルデータとして保管される。そしてドキュテックを利用すれば、在庫棚から取り出すように、印刷物を作り出すことができる。これこそが本来の“オンデマンド”という言葉のイメージである。
※4 本社工場にはDocuTech135が五台、DocuTech6180、ColorDocuTech二台が設備されている。別工場にはDocuTech135が四台設置されており、本社からプリントデータを送信するリモートプリンティングも行われている。
※5 同社では月間最大一〇〇〇万カウントという驚異的なビジネスボリュームを達成している。
※6 他に複数台のドキュテックを設備するメリットについて生島マネージャーは次のように述べる。
「ドキュテックという機械が面白い点は、ある程度、オペレーターがチューニングすることにより、厚紙を得意にしたり調整することができる。複数台の機械を持つことで、個々の機械に対してそれぞれ違った調整が行える」
※7 生島マネージャーも社長と同じく、以前は印刷業界と全く関係ない業界で働いていた。それ故に、営業活動も顧客である一般企業の視点に立って行っているようだ。「オンデマンドの市場はまだまだ掘り起こされていない」「技術進化によってビジネスの領域が拡がる」と語る。
※8 製本機「BQ450」「BQ55」(ホリゾン)。断裁機「RC−77」(ITOTEC)。ステプラー・折り・ホチキス「SPF−9X」「SPF8」(ホリゾン)、「DBM−120T(デュプロ)。紙折機「PF−38」(ホリゾン)。ジョガー「PJ−88」(ホリゾン)。
※9 同社では顧客から入稿されたデータや紙原稿をPDFに変換し、CD−Rで提供するサービスも行っている。マニュアルや報告書などでニーズは高いようだ。
※10 同社のドキュテックはトラブルが生じるとランプが点灯する。これも複数の機械を同時に使っていく上での工夫である。
本社に並ぶDocuTech
トラブル時に点灯するランプ

社名に“オンデマンド”と掲げた同社のビジネスは、まさにこのイメージを具現化したサービスを提供するものであり、これはオンデマンド印刷専業だからこそできる同社の“強み”となっている。
 社名に“オンデマンド印刷”と掲げるということは、市場にオンデマンドで印刷を提供するということを宣誓しているのと同じ意味を持つ。様々な顧客から多様な印刷の仕事を請け、常にシビアな納期を迫られる多くの印刷業にとって、このサービスを本当に実践することの難しさは想像に難くない。

 まず、このサービスを実現するために必要となるのは生産設備である。同社の場合、DocuTech135を九台、DocuTech6180を一台、ColorDocuTech60を二台、の合計一二台のオンデマンド機を保有※4している。しかも、誌面でこの台数を紹介しても、「二〇〇一年六月現在」と付記しておかねばならないほどの勢いで、その導入台数を増やし続けている。この設備拡張の背景は、もちろん同社のビジネスが市場から受け入れられている※5ことがある。しかし、これだけの設備を持つ理由※6は他にもある。同社の生島裕久営業マネージャー※7は次のように語る。
「いくらオンデマンド印刷機を導入していても、仕事が詰まっていれば納期は遅くなる。だから当社にとって、生産性の高い機械を複数台持つということの意味は非常に大きい。これだけの台数を保有しているということが、お客様からの信頼に繋がっている」 

 一二台という台数を強調することは設備主体のビジネスと思われるかもしれないが、これは同社の根幹となるサービスを行っていくためのものである。同社にはオンデマンド印刷専業だからこそ、守らなければならないサービス品質があるのだ。
 また、これだけのドキュテックを持つことは、従来の領域を拡張する効果もあるようだ。
「当社はオフセットは持っていない。だから、オンデマンド印刷に特化しようという基本姿勢がある。従来、二〇〇〇〜三〇〇〇部の一色の印刷は軽オフの仕事と考えられていたわけだが、我々はオンデマンドで処理しようと決めている。ポイントとなるのは価格だが、これだけの生産能力をバックグラウンドとすることで、軽オフにも負けない価格を実現している」(生島マネージャー)

 だが、オンデマンド機だけが揃っていたとしても、オンデマンドサービスは完成しない。同社では製本機、断裁機、折機など後加工処理機も社内に完備※8している。特に製本においては無線綴じ、クロス綴じ、中綴じ、平綴じ等に対応しており、オンデマンド印刷でイメージされがちな簡易製本以上の商品を顧客に提供している。同社が目指す企業イメージは「オンデマンド印刷の百貨店」であり、顧客に提供する商品の形も多様※9である。

 さらに同社のオンデマンドサービスは、従来の印刷ビジネスでは領域外であった発送代行も行っている。つまり、同社に注文すれば、製本まで行われた印刷物を短納期で受け取れるだけではなく、それを送りたい相手(エンドユーザー)に直接届けてくれるわけだ。生島社長は「お客様は発注したら、後のことは忘れてもらってもいい」と述べる。多くのビジネスが複雑化している状況において、顧客の煩雑な業務を軽減させることが、同社のオンデマンドサービスの価値だ。

 しかし、顧客が本当の意味でオンデマンドサービスを実感するのは、二回目の発注をしたときからかもしれない。同社では顧客から受け取った全ての原稿をデジタル化して、無料でサーバーに保管している。
「ドキュテックのプリントイメージデータ(RIP済みデータ)−−同社では「電子版下」と呼ぶ−−をリモートで自動的に格納する大容量ファイルサーバー管理システムを独自に開発した。我々のように複数のドキュテックを並行して使う※10場合、納期の割り振りなどジョブ管理を行って効率的に処理していくことが重要である。そして、このシステムが一番効果を発揮するのは増刷への対応である。格納されているのはRIP済みのデータなので、ボタンを一つ押せば、プリントが始まり、丁合した状態で出てくる。しかも、指定ページに色紙を挿入するといった情報も保管されている。これまでお客様でも、その印刷物の最終的に必要な部数というのはよく判らなかった。我々のお客様は、その時に必要な量だけを注文し、足りなくなったら増刷するという考え方ができる」(生島マネージャー)

 小ロット対応のイメージが強いオンデマンド印刷であるが、幾度も増刷されていけば、それは少部数ではなくなる。先述した生島社長の「在庫をハードディスクに格納する」という発想は、このシステムにより具現化されているわけである。このデジタルデータを重視する考えは徹底されており、サーバーに格納された電子版下は定期的にバックアップをして、銀行の貸金庫にも保管されている。

※11 生島マネージャーはカラー・ドキュテックの付属スキャナーも高く評価している。同社ではハイエンドスキャナーと、付属スキャナーでスキャニングしたカラー画像をカラー・ドキュテックで出力した場合、どれだけ品質の差があるかテストを行ったという。同社がスキャナーにこだわったのは、顧客から入稿される原稿が紙版下である場合も多いからである。
今年導入されたColorDocuTech 60
先述の通り、同社は生島社長とドキュテックの出会いから誕生した。生島社長は「我々にはドキュテックしかない。だから何でもできるわけではない。しかし、だからこそ、これまでの印刷では出来なかった価値も強力にプッシュできる。これは当社の強みであると考えている」と述べている。このようなドキュテックハードユーザーである同社にとって、大きなインパクトとなったのがカラー・ドキュテックの登場である。

 生島マネージャーは同機を次のように評価する※11
「カラードキュテックは、オフセット印刷と比較して大幅にコストダウンすることができるので、品質においてもお客様は十分に認知できる。それより同機の最も大きな利点は、コート紙に印刷が出来るということである。これは、市場が求める用紙が使えるということだ。あとRIPのスピードも含めて、生産能力が高いということも当社のようなビジネスには大きな価値である」

 これまで「ドキュテックしかない」ということは、扱える商品はモノクロの印刷物に限られていたということだ。しかし、カラーになれば扱える商品の範囲は格段に広がることになる。
「カラー・ドキュテックの登場は、我々のビジネスの領域を大きく拡大させるものである。当社のビジネスは、これから大きく変化する」(生島マネージャー)

 同社は今年を「カラー元年」と位置付け、カラー・ドキュテックを二台導入した。ドキュテックとの出会いによって誕生した企業が、カラー・ドキュテックの登場によって新たなステージに入ろうとしている。
資料提供「印刷現代6月25日号」